ライドシェア、運転手から悲鳴!「ワーキングプアを強要」「売上の3~5割が手数料」

稼働は週20時間以内、スポットワークも不可

B!

規制改革推進会議の地域産業活性化ワーキング・グループで、自家用車活用事業(日本版ライドシェア)の最新状況が発表された。

事業の利用状況をはじめ、参加した一般ドライバーからヒアリングした意見・要望なども取りまとめられている。運用開始から4カ月が経過し、ドライバーや事業者からはどのような声が上がっているのか。その中身に触れていこう。

▼第17回 地域産業活性化ワーキング・グループ
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2310_05local/240729/local17_agenda.html
▼資料1-3-2 事務局 提出資料【自家用車活用事業の状況】
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2310_05local/240729/local01_03_02.pdf

■ドライバー側の意見

ドライバーへのヒアリングは、2024年6月に約20人に対し実施された。主な意見をカテゴリー別に見ていこう。

出典:地域産業活性化ワーキング・グループ公開資料

日時・曜日関連

おそらく、多くのドライバーがこの意見に賛同するのではないか。東京エリアや京都エリアは、それぞれ時間は限られているものの月~日曜日全てでタクシーが不足する時間帯があるため比較的働きやすそうだが、神奈川エリア(京浜)は金土日、名古屋エリアは金土のみなど、稼働可能な時間帯・曜日が狭い。

一般的なライドシェアのように好きな時間に好きなだけ――といった働き方はもとより、パートとしても不便な状況だ。これを理由に自家用車活用事業への登録・参加を諦めた人も多く、モビリティプラットフォーム事業者協議会によると、応募数約2,000人のうち内定者は約30人にとどまっているという。

【参考】日本版ライドシェアの応募状況については「ライドシェア、応募者の大半「途中離脱」!給与「期待はずれ」、稼働時間「短すぎ」」も参照。

運行地域関連

通常のタクシー営業の場合、目的地、または到着地のいずれかが営業区域内であればサービスを提供することができる(道路運送法第20条)。

ただ、自家用車活用事業の場合、該当エリアにおける供給不足を補うことが主目的となるため、営業区域外から営業区域内への旅客輸送は認められないようだ。

遠方から該当エリアに通う時間や費用については、厳しく言えば個人の問題に過ぎない。自身が生活する地域でサービス提供できるに越したことはないが、制度上、需要過多を前提としているため望み通りいくとは限らないのだ。

雇用形態

制度上、週20時間まで――といった定めはないが、社会保険の兼ね合いなどを理由に多くのタクシー事業者が制限を課しているようだ。事務局が行った調査では、1週あたり20時間以内との制限を設けていないタクシー会社は見当たらなかったという。

また、本業と副業の合計労働時間が1日8時間、週40時間の法定労働時間を超過するケースは、割増賃金の支給対象となる。割増賃金は原則として後から労働契約を締結した方に支払義務が生じるため、敬遠されやすいようだ。

こうした課題は副業あるあるなのかもしれない。業務委託の是非は過去にも議論されている。業務委託であれば社会保険を考慮する必要はなく、割増賃金も発生しない。ただし、稼働を強制することはできないため許可台数以上のドライバーを確保しておく必要がある。

自家用有償旅客運送では業務委託が認められている。労働の安定確保の問題などを解決できれば、業務委託方式も認められる可能性がありそうだ。

出典:地域産業活性化ワーキング・グループ公開資料

スポットワーク

好きな時間に好きなだけ働きたい――という1つの事例と言える。こうした自由をなかなか確保できないのが現在の自家用車活用事業の課題だ。

ダイナミックプライシング

タクシー業界でも2023年に事前確定型変動運賃が制度化され、認可制でダイナミックプライシングを導入することが可能になった。

配車アプリが前提となる自家用車活用事業はダイナミックプライシングとの相性は良さそうだが、需要過多状態が稼働の前提となっているため、ダイナミックプライシングを導入した場合運賃は高くなるだけで、原則安くなることはない。

自家用車活用事業そのものが需給調整の役割を担っていることも踏まえれば、安易に導入はできないのかもしれない。

【参考】ダイナミックプライシング導入要望については「ライドシェア、料金変動制で「運賃最大3倍」案 業界団体、国交省に意見」も参照。

その他

点呼をはじめとした運行管理面は、可能な限り効率化すべき――というのは、事業者、ドライバーに共通した思いだろう。

遠隔点呼や自動点呼は可能のようだが、「対面による点呼と同等の効果を有するものとして国土交通大臣が定める方法を定める告示」に従うこととされている。アイデア次第でより効率化を図ることができそうだ。

現状アナログ的な手法でドライバーを指揮監督することで安全を確保しているが、運行管理のデジタル化・遠隔化は現在進行形で進められており、点呼においてはアプリ上での顔認証やドライバーによるチェックリストへの回答結果などに基づき、自動または遠隔で配車依頼の可否を判断することなども検討されているようだ。

手数料に関しては、適正な割合をどう判断するかが難しい。一般ドライバーはあくまでタクシー事業者ののれんのもとサービスを提供しており、運送責任も事業者が追う。点呼業務だけで手数料を取っているわけではないのだ。

政府関係者に箝口令がしかれている――というのはなかなかきな臭い話だ。別件かつ真偽は不明だが、「一般ドライバーが足りず、正規ドライバー以外の社員を一般ドライバーとして稼働している」「マッチング率を上げるため、流し営業中も迎車と偽り配車依頼を優先している」――といったことも報じられている。

ドライバーの労働をめぐる点にも、何かしらの問題が隠されているのかもしれない。

■タクシー事業者などからの要望

タクシー事業者からも以下のような意見が出されている。

出典:地域産業活性化ワーキング・グループ公開資料

地域・時間帯・台数制限などの運用改善

運行可能な時間帯や地域、台数などの制限は、事業採算面やドライバー確保の両面から不可欠という。現実問題、限られた時間帯やエリアでの運行は、事業者、ドライバー双方にとって利便性が低いことは言うまでもないだろう。

営業所関連では、ドライバー同士が通勤利便性の高い特定営業所の許可台数の枠を取り合う形となり、本来稼働することができるドライバーが思うように稼働できないという。事業者・ドライバー双方から指摘があるようだ。

自家用車の発着地関連では、素朴な疑問だが駅のロータリーで乗降できない仕様になっているのだろうか。タクシープールがある駅であれば、そちらを優先しろということなのか、あるいはタクシー専用の乗降場を使用できないということだろうか。後者であれば理解できる。空港なども同様なのかもしれない。

タクシーとはあくまで区別されるため、対策としては一般乗用車用の乗降口を利用するか、なければ新設を求めていくことになりそうだ。

実施主体関連

道路運送法の規制下にない鉄道事業者が認められ、運転代行業者が認められない理由は何かとの指摘もあるようだ。タクシー事業者以外への全面解禁とまではいかずとも、一定の運行管理能力を有するものと認められる場合など、段階を経て拡大の道を探るのも一手かもしれない。

なお、国交省はバス、鉄道といったタクシー以外の運送事業者の自家用車活用事業への参入促進を検討していく方針だ。

■【まとめ】バージョンアップに向け随時検討

課題としては、このほかにもマッチング率の指標など需給状況を把握する手法も挙げられる。現状、配車アプリの利用者はまだ限定的で、その傾向は地方に行くほど低いからだ。タクシープールの行列なども反映されない。

国はさまざまな意見をもとに検討を重ね、自家用車活用事業のバージョンアップを図っていく構えだ。イベント対応や大阪・関西万博対応に向けた協議の場の設置、新たなセッションベースでのマッチング率試算、貨客混載・協議運賃制度の是非、ダイナミックプライシングなど運賃・料金の多様化、5%ルールの適用時間・曜日の拡大や台数制限の緩和方針の取りまとめ――など、おおむね8~10月の間に検討を進めていく方針としている。

出典:地域産業活性化ワーキング・グループ公開資料

バージョンアップによりどのように利便性が増すか、要注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



B!
関連記事