岸田前首相の政権時代に制度が始まり、すでに1年余りが経過した日本版ライドシェア(自家用車活用事業)。全国各地にサービス網が広がり、新たなモビリティサービスとして定着した一方、その拡大には一服感がうかがえる。地方では「稼働ゼロ」が続くエリアも出始めているようだ。
本格版ライドシェアの代替策として始まった日本版だが、事業を継続していくためにはさらなる改善が必須の状況だ。
日本版ライドシェアの現状と行く末に迫る。
【参考】関連記事としては「ライドシェアは「タクシーと別の業」 LINEヤフー会長の規制改革論の真意は?【対談前編】」も参照。
記事の目次
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■日本版ライドシェアの運用状況
約1000事業者が日本版ライドシェアに参加
国土交通省が毎週発表している日本版ライドシェアの実施状況によると、2025年6月末までに日本版ライドシェアに参加した事業者数は、大都市部で510者、その他地域で488者に及ぶ。国内全体で約1,000者に達したのだ。エリア数は、大都市部12地域、その他地域126地域に及ぶ。
大都市部の該当エリアにおけるタクシー事業者は計1,144者、その他地域は1,837者で、大都市部では44%、その他地域では約27%の事業者が参加している。
一方、その参加時期を見ると、2024年12月までに参加した事業者は大都市417者、その他地域408者で、全体の8割超が昨年までに参加した事業者だ。2025年の四半期別では、1~3月が大都市58者、その他地域55者、4~6月が大都市35者、その他地域25者となっており、新規参加数は明らかに減少している。
次に、稼働状況を見ていこう。全エリアにおける2025年7月第1週までの登録ドライバー数は計9,105人で、稼働台数15万8,482台、運行回数は84万9,576回に上る。
マッチング率は、日本版ライドシェア導入前の2023年と導入後の2024年4月以降を月ごとに比較すると、約8割~9割の時間帯で改善しているという。
▼日本版ライドシェア(自家用車活用事業)関係情報|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_fr3_000051.html
大都市部は概ね順調に推移
最も運行回数が多い東京(特別区・武三)では、2024年12月末までに27万3,735回、2025年1~3月に12万1,081回、4~6月(第4週まで)に11万5,253回と好調で、年40数万回ペースで推移している。登録ドライバー数も月100人以上のペースで増加しているようだ。
運行回数累計6万1,952回でエリア別2位の福岡(福岡)は、2024年12月末までに2万4,715回、2025年1~3月に1万5,384回、4~6月に2万711回と増加傾向がうかがえる。埼玉(県南中央)も、2024年12月末までに1万6,621回、2025年1~3月に1万212回、4~6月に1万2,648回と増加している。
一方、北海道(札幌)のように、2024年12月末までに2,727回、2025年1~3月に1,958回、4~6月に1,033回と明らかな減少を見せた地点もある。冬季の観光需要や降雪・積雪による交通麻痺が影響しているのかもしれない。
大都市部では、東京と埼玉、福岡以外の9エリアでは、特段の増加傾向がうかがえず、横ばいが大半を占めている印象だ。
地方では実質休止状態のエリアも
その他地域では、富山(富山)が2024年12月末までに728回、2025年1~3月に105回、4~6月に540回、静岡(静清)が2024年12月末までに90回、2025年1~3月に8回、4~6月に178回、沖縄(宮古島)が2024年12月末までに0回、2025年1~3月に220回、4~6月に499回など、大きく数字を伸ばしているエリアがいくつかある。
一方、三重(伊勢市・志摩市)では2024年12月末までに280回、2025年1~3月に241回、4~6月に0回、青森(青森)が2024年12月末までに27回、2025年1月以降0回、岐阜(美濃・可児)が2024年12月末までに4回、2025年1月以降0回、福井(敦賀)では2024年12月末までに65回、2025年1月に5回でそれ以降0回となっている。
上記エリアでは、2025年度に入ってから稼働台数、利用ともにゼロとなっており、事実上日本版ライドシェアが休止状態となっているようだ。
このほか、2025年1月末に事業開始した山口(山口)では、6月末までに登録ドライバー6人、稼働台数45台ながら運行回数が1回、同時期に事業開始した山口(宇部)に至っては、登録ドライバー1人、稼働台数43台で運行はゼロだ。
3月22日に事業開始した高知(土佐交通圏)では、登録ドライバー1人、稼働台数1台で運行回数1回、2024年12月末に事業開始した山梨(東八・東山)では、登録ドライバー1人、稼働台数12台で運行回数ゼロ、同時期に開始した山梨(東部・富士北麓)では、登録ドライバー4人、稼働台数3台で運行回数3回と、もはや関係者すら乗車していないようなエリアもある。
実質休止状態のエリアは努力を怠っている?
日本版ライドシェアは、大都市圏を中心に新たなモビリティサービスとして定着した一方、その他地域では一定の支持を集めたエリアとそうでないエリアの2極化が進んでいる印象だ。
一般論として、利用が進まない地域の特徴としては、配車アプリが浸透しておらず、乗客の多くはタクシープールや流し営業中のタクシーをつかまえるスタイルがスタンダードとなっている点が挙げられる。配車を希望する際も電話のため、タクシーが完全に出払っていてすぐに向かえない状況でない限り、わざわざ日本版ライドシェアを選択する余地がないのだろう。
例えば、山口県の萩交通圏と柳井交通圏では、配車アプリを使わない日本版ライドシェアとして、電話や現金支払いも可能な従来型に近いサービスとして提供しているようだ。
山口市では、県と市、山口市タクシー協会、REAが「やまぐちデジタル実装モデル創出業務」を活用し、2024年に地域専用の共同配車タクシーアプリ「やまぐちTAXIアプリ」の運用を開始している。日本版ライドシェアにも対応しているが、配車アプリとしての利用実態が知りたいところだ。
稼働がほぼゼロのエリアでは、関係者の努力も欠如しているものと思われる。日本版ライドシェアを導入するには、自治体が曜日や時間帯、不足台数、運行エリアなどを運輸支局に申し出るパターンと、事業者が申し出るパターンがある。
前者の場合、公共交通の観点から意欲のある自治体が手を挙げ、交通圏内の事業者の意欲調査を経て事業者が事業の許可申請を行い、運送を開始する。このケースで利用が低調な場合、自治体の見立てが間違っていたか、実施後の努力を怠っているのか――のどちらかとなる。
つまり、日本版ライドシェアでは、抱える公共交通の課題を解決できないか、周知や利便性向上といった活動を怠っている可能性が高いのだ。厳しい言い方になるが、何のために導入しようと思ったのか、そしてどのように運用しようと計画を立てていたのか疑問がぬぐえない。
後者(事業者主体)の場合、事業者に意欲があるものの、そもそも日本版ライドシェアの需要がないか、こちらも周知を図らないなどその後の努力を怠っている可能性が高い。
もしかしたら、日本版ライドシェアの需要云々ではなく、ドライバー不足を補うことを主目的としているのかもしれない。タクシー供給不足は実はそれほど顕在化していないものの、慢性化しつつあるドライバー不足にメスを入れるため、日本版ライドシェアに手を出す可能性も十分考えられる。
実際の稼働率が低くとも、一般ドライバーがタクシードライバーを目指すきっかけになれば本望――という考え方だ。
勝因と敗因をしっかり分析すべし
総じて見ると、大都市部を中心にサービスが定着しており、一部エリアでは増加傾向がうかがえるものの、規制緩和を続けない限り伸びしろはそれほど残されていないものと思われる。地方ではほぼ稼働していないエリアも出始めており、日本版ライドシェア事業としてしっかり検証すべき課題が浮き彫りになり始めている印象だ。
需要や供給量の絶対数が多い大都市部はともかく、地方の多くは需要・供給とも絶対数が少なく、ちょっとした要因でその均衡は崩れる。
好調に推移しているエリアの勝因は何か。低調なエリアの原因は何か。精査するための大まかな情報は幾分出揃ったはずだ。同事業のさらなる普及・継続を図っていくのなら、一般ドライバーや利用客に見放される前に改善あるのみだ。
■日本版ライドシェアの動向
試行錯誤とバージョンアップで利便性向上
日本版ライドシェアは、コロナ禍後に大都市部や観光地などで顕在化したタクシーの供給不足解消に向けた新制度で、2024年度にスタートした。
一般ドライバーが自家用車を活用して移動サービスを提供できる点は海外で主流のライドシェアサービスと同一だが、日本版はタクシー事業者が主導権を握っている点と、サービス提供可能な時間帯や曜日、エリアなどが定められている点が異なる。
一般ドライバーは、同事業に参加するタクシー事業者と雇用契約などを結んだうえで、事業者の指示を受けながらサービスを提供しなければならない。多くはライド数に関わらない時給制を採用しているようだ。一部インセンティブを設けている事業者もあるという。
当初は、タクシー配車サービスのマッチング率が低いエリア・曜日・時間帯などをもとにサービス提供可能な条件が設定されていたが、雨天時や酷暑といった天候条件、イベント時などへの拡大、地域の協議会で運賃を決定する協議運賃の導入、配車アプリを使用しない従来手法の導入、貨客混載の導入、大都市以外の地域における供給車両数・時間帯の拡充など、規制緩和を重ねている。
2025年度には、試行的にタクシー事業者以外のバス・鉄道事業者による参入の道も開いた。規制緩和のもと、バス・鉄道事業者がタクシー事業の許可を受けるパターンと、タクシー事業者とパートナーシップを組んだうえで参入するパターンを想定しているようだ。
タクシー供給が不足している条件下において、鉄道事業者らが規制緩和によってタクシー事業を展開しやすくすることにより、鉄道―バス―タクシーといった異なる移動サービスの連動性を高めたり、バスドライバーをタクシードライバーに有効活用したりすることが可能になるという。
【参考】バス・鉄道事業者の参入については「Uber禁止の日本版ライドシェア、バス会社には「参画特権」検討」も参照。
さらなるバージョンアップへ
日本版ライドシェアに関しては、国の規制改革推進会議・地域活性化・人手不足対応ワーキング・グループ(2025年4月開催)で、今後の改革の方向性が示されている。
内閣府が実施した各種調査によると、生活者については6~7人に1人の割合で3か月以内に移動に困った経験があり、その回数は小規模団体ほど多い傾向があることが明らかとなった。
また、日本版ライドシェアドライバーについて、稼働できる曜日・時間帯について、制限をなくす、または拡大してほしいと回答した人が9割半ば以上、業務委託契約を希望する人が7割強、休日に需要が高まった際に稼働する場合、通常の5割増し、2倍なら勤務したいと回答した人が、それぞれ4割強、2割いたという。
これらの観点を踏まえ、営業区域・時間帯・台数について、都市部と地方部で移動の足不足の実態が異なる状況を踏まえ、地域ごとの実情に合わせた事業の在り方についてどのような対応が考えられるか。
また、タクシー事業者以外の実施主体として、現状実証が行われているバス・鉄道事業者による参入も含め、どのような方策が考えられるか。運賃・料金については、タクシーの事前確定運賃制度の準ずることが求められているが、需給に応じた変動の在り方も含めどのような制度が考えられるか。
ドライバーについては、十分に確保できない地域・事業者も見受けられ、より多くのドライバーを確保する観点から働き方などについてどのような方策が考えられるか、運行管理面では、デジタル技術をより活用し、運行管理をより効率的・効果的に行うためどのような方策が考えられるか――といった観点で、議論を進めていく予定のようだ。
■【まとめ】一般ドライバーの納得度に注目
先行地域ではサービスが定着し、一服感が見られる一方、地方では成功と失敗が顕著に分かれ始めている印象だ。
一つのポイントとして、日本版ライドシェアに参加する一般ドライバーの納得度に焦点を当てれば、事業の持続性が見えてくる。一般ドライバーがその業務内容や対価に納得する環境が構築されていれば、おのずと事業は継続されるためだ。
収支が微妙でタクシー事業者の赤字が続く場合、徐々にドライバーの待遇は悪くなる。黒字であっても、稼働時間が短ければドライバーの納得度は低下する。
日本版ライドシェアは今後どのような道をたどるのか。伸び悩むようなことがあれば、本格版ライドシェア導入に向けた動きが再び活発化する可能性が高い。ライドシェア推進派・慎重派(反対派)の駆け引きの行方にも注目したいところだ。
【参考】ライドシェアについては「ライドシェアとは?定義や意味は?課題や免許についても解説」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)