自家用車活用事業、通称「日本版ライドシェア」のスタートから3カ月が経過した。対象エリアは大都市部12エリア、その他エリア13カ所となり、一般ドライバーの活躍の場が少しずつ拡大しているようだ。
参加するタクシー事業者数も増加傾向にあるが、国土交通省が公表した最新の実施状況によると、大都市ほど事業への参加率が高く、地方ほど低い状況がうかがえる。その差は2倍ほどで、都市部と地方部で事業の受け止め方に温度差があるようだ。
最新データをもとに、日本版ライドシェアの現状に迫る。
▼日本版ライドシェア(自家用車活用事業)関係情報|自動運転ラボ
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_fr3_000051.html
▼自家用車活用事業(法第78条第3号)の実施状況|自動運転ラボ
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001755151.pdf
記事の目次
■日本版ライドシェアの最新運用状況
タクシー事業者の参加率は大都市部約30%、地方14%の状況
国土交通省が発表した営業区域ごとの日本版ライドシェアの実施状況(7月7日時点)によると、実施事業者数は東京エリアが95事業者(実施可能車両数が通知された事業者数は111事業者)で最多となっている。同交通圏における総タクシー事業者数は311事業者のため、約30.5%の事業者が実際に日本版ライドシェアを実施していることになる。
神奈川エリアは111事業者中43事業者、愛知エリアは68事業者中13事業者、京都エリアは63事業者中18事業者で、東京エリアを含む先行4エリアの合計では553事業者中169事業者、約30%が参加済みという結果になっている。
次に、先行4エリアに次ぐ大都市部の8エリアを見ていこう。北海道エリアは48事業者中27事業者、宮城エリアは46事業者中9事業者、埼玉エリアは65事業者中23事業者、千葉エリアは30事業者中8事業者、大阪エリアは175事業者中21事業者、兵庫エリアは80事業者中33事業者、広島エリアは69事業者中18事業者、福岡エリアは95事業者中35事業者で、8エリアの合計では608事業者中174事業者、参加率は約29%となっている。
大都市部では、30%が1つの基準となりそうだ。一方、その他エリアでは、軽井沢エリアは5事業者中4事業者、富山エリアは10事業者中1事業者、石川エリアは32事業者中7事業者、岐阜(大垣)エリアは6事業者中2事業者、岐阜(岐阜)エリアは13事業者中2事業者、岐阜(東濃西部)エリアは7事業者中1事業者、岐阜(美濃・可児)エリアは10事業者中2事業者、沖縄エリアは13事業者中7事業者、茨城エリアは39事業者中8事業者、三重エリアは15事業者中1事業者、静岡エリアは29事業者中1事業者、埼玉(県南東部)エリアは40事業者中2事業者、埼玉(県南西部)エリアは51事業者中1事業者、合計では270事業者中39事業者と、わずか14%にとどまっている。
競争が激しい大都市部では、新規事業に積極的に参加する事業者の割合がやはり多いのかもしれない。一方、地方は都市部に比べ事業開始日が遅いケースが多いため初動が遅れている点も否めないが、一般ドライバーの確保が容易ではなく、かつ都市部ほど需給がひっ迫している感も弱いため、そこまで温度が上がっていない可能性がありそうだ。今後の経過に注目したい。
都市部ほど運行回数は高めの傾向
次に、登録ドライバー数と稼働状況を見ていこう。4月8日スタートの東京エリアは1,720人が登録し、稼働台数9,056台で運行回数は5万3,785回に上る。1台1時間あたりの運行回数は約1.5回だ(参考までに、タクシーは同0.7回)。
神奈川エリア(4月12日スタート)では、登録ドライバー数348人で稼働台数1,135台、運行回数4,874回(単位当たり0.9回)、愛知エリアは登録ドライバー数43人、稼働台数75台、運行回数427回(1.3回)、京都エリアは登録ドライバー数285人、稼働台数1,102台、運行回数7,975回(1.1回)の状況だ。
その他地域は、公表されている軽井沢、富山、石川、静岡の4エリア合計で登録ドライバー数51人、稼働台数142台、運行回数614回で、1台1時間あたりの運行回数は軽井沢0.9、富山0.3、石川0.3、静岡0.1となっている。
全体では、登録ドライバー数3,262人、稼働台数1万2,851台、運行回数7万4,742回で、単位当たりの運行回数は0.7回となっている。正規のタクシーと同程度のようだ。都市部ほど単位当たりの運行回数は高めで、その他地域ほど低い傾向がうかがえる。
なお、一般ドライバーの中には、タクシー事業者内のドライバー以外の従業員を登録して運行しているケースもあるという。制度上違反ではなく正当な行為だが、ドライバー需要などを正確に把握するためにも、一般ドライバーと区別して集計した方が良いのかもしれない。
マッチング率は改善傾向、雨天時に課題
ライドシェア開始前と、開始後となる7月1~7日のマッチング率の差を見ていく。東京エリアではおおむねマッチング率は改善している。月曜の7~9時台や土曜の16~18時台など、日本版ライドシェア開始前からマッチング率が落ちている時間帯があるが、ともに雨天時となっており、需要が急増した可能性が高い。
埼玉(県南中央)では、開始前のマッチング率40~50%台が複数あるなど供給不足が著しかったが、雨天時を除きおおむね改善している。ただし、依然として70%台も多く、まだまだ一般ドライバーの活躍の場が残っているようだ。
神奈川エリアでは、開始前に60~70%台4カ所、80%台が13カ所あったが、実施後は80%台4カ所、それ以外は90%台となった。
宮城エリア(仙台)では、日本版ライドシェア開始前にマッチング率90%未満が8カ所あったが、実施後は全て90%を上回っている。
愛知エリアでは、実施時間帯の土曜深夜で改善が見られたものの、金曜夕方は変わらず、また実施時間外の日曜夜などにマッチング率の低下が見られている。従来のタクシーに加え、供給不足が予測される時間帯に多かれ少なかれ一般ドライバーがサービスを提供するため、全体としては当然改善傾向にあるようだ。
なお、公表されているデータは7月1~7日の単発データのため、まだ単純比較できる段階にはない。今後、サンプルの増加とともに平均データなどが出てくると、より正確な事業効果を把握することができそうだ。
制度改善、雨天時にも対応
前述したマッチング率にも表れているが、曜日や時間帯とは別に雨天時の供給不足もやはり顕著となりがちだ。
そこで国は、7月から1時間5ミリ以上の降水量が予報される場合、日本版ライドシェアにおける自家用車の稼働を可能にする改正を図っている。
降水量は日本気象協会がホームページに掲載する予報を参照し、予報更新により基準を満たさなくなった場合でも雨天時対応を行うことができる。
制度の改善点はまだまだ多い?
こうした改正は、必要に応じて今後も実施されていくものと思われるが、そもそも論として、マッチング率が低い時間帯・曜日という事業稼働の前提条件が不安定で使い勝手が悪い設計となっていないだろうか。
長くデータを収集していけば一定の傾向がうかがえるのは事実だが、観光地や地方などは外部要因に左右されやすい。例えば観光地でインバウンド需要が急減し、マッチング率が常に高くなった場合どうするのか。
制度上、稼働可能な時間帯は本質的に増減するものと思われる。増加の一途をたどるのであれば問題ないが、激減した場合どうするのか。
「一般ドライバーはもう不要」と切り捨てるのだろうか。事実上雇用関係を結んでいるケースが大半と思われるが、雇用期間の定めなどさまざまな事態を想定した契約となっているのだろうか。
また、マッチング率をベースにした基準設定は客観性を担保しやすいが、配車アプリが普及したエリアでしかデータを得ることができない。また、駅前のタクシープールの状況など、アプリに反映されない面もある。
今後、日本版ライドシェアをバージョンアップさせるためには、さまざまな観点から見直しが必要になるものと思われる。制度設計の根本的な面から改善を図る必要が出てきそうだ。
タクシー事業者の収支状況にも注目
日本版ライドシェア導入に伴い受け皿となっているタクシー事業者の収支状況なども気になるところだ。
多くの場合、時給+歩合のような形態で一般ドライバーを雇用していると思われるが、求人にかかった費用やプラットフォーム利用料などを加味した上で、しっかり採算が取れているのか。
現状、一部赤字となっている事業者もいるのではないだろうか。タクシー事業者が採算を取れなければ事業に継続性は生まれない。需要増がしっかり収益に結びついているかもチェックすべき項目かもしれない。
■日本版ライドシェアの動向
WGからさまざまな意見
ライドシェア議論を進める規制改革推進会議の地域産業活性化ワーキング・グループでは、以下のような意見が出されている(5月末時点)。
- シフト制ではなく、ドライバーが悪天候時に需要増が見込まれると自主的に判断し稼働できる状態を保っておくことが備えとして重要ではないか。そのためには、デジタルを用いた遠隔管理やダイナミックプライシングの導入、ドライバーとの契約形態の再考も必要。
- 政策の実効性をマッチング率で判断しているが、配車アプリへのシフトを強める反面、電話での配車や流し、駅待ちのタクシーなどに悪影響が出る懸念もある。社会全体の移動需要を把握する手段が別途必要。
- リクエストしてから車が到着するまでの平均待ち時間を調べ、一つのKPIとして見ていくことも検討すべき。
- アプリデータがない地域の移動の足不足やその解消の状況も定期的にモニタリングすべきではないか。
- いつの時点で、どのような判断基準で全国の移動の足不足が解消されているかどうかを判断するのか。
- アプリの普及率が低い地域でのモニタリングではかなり限界があるのではないか。
- 業務委託ドライバーの就業条件(副業の取り扱いやドライバーになるための要件・待遇)について、欧米の状況を踏まえどのように考えるか。
- 地域のタクシー事業者が自家用車活用事業を行わない場合、運行主体をタクシー事業者以外の者へ拡大することをどう考えるか。バスやハイヤー事業者以外の事業者はどうか。
- 自家用車活用事業の時間帯・エリア規制・台数制限を首長の判断などによって緩和し採算性を改善することはどうか。
- 営業区域及び営業所の設置義務の撤廃、運行管理のデジタル化・遠隔化などによって、従来事業性が乏しく参入が難しいと地域とされた地域についても参入を促すことができるのではないか。
1年かけず制度設計した即席事業であり、運用しながら改善を図っていくことが前提となっているため、今後も課題・改善点が続々出てくるものと思われる。
データ取得可能な地域は引き続き丁寧にデータ検証
規制改革推進会議が5月末に発表した同事業に関する論点整理では、全ての地域において適切なデータを検証して地域交通の担い手不足や移動の足不足解消の状況を確認し、自家用車活用事業や自家用有償旅客運送の制度の効果について期限を定めず定量的に丁寧な評価を行い、適時適切に改善を不断にしていくことが望ましいとしている。
また、現時点においては取得可能なデータの対象地域・内容には限界があることを踏まえ、アプリなどでデータが把握可能な12都市については適切にデータを検証する。その際、天候や季節波動、イベントなどによる需要の短期的・中期的増減への対応も含め、制度の運用について柔軟な見直しを行っていく上で、ただちにその評価を行うことは困難であることに留意するとしている。
タクシー事業者以外も受け皿となることが可能な本格版ライドシェアについては、特定の期限を設けず法制度を含め事業の在り方について議論を進めていく方針だ。
【参考】ライドシェアについては「ライドシェアとは?(2024年最新版)日本の解禁状況や参入企業まとめ」も参照。
■【まとめ】「棲み分け」が焦点に
改善が進む日本版ライドシェアだが、今後は自家用有償旅客運送事業や継続議論中の本格版ライドシェアとの兼ね合い・すみ分けも重要性を増すものと思われる。なお産経新聞によると、道路運送法第78条第2号に基づく自家用有償旅客運送事業は今後その名称を「公共ライドシェア」に変更・統一していく方針であることが報じられている。
地方では、日本版ライドシェアよりも自家用有償旅客運送事業の方が継続運営しやすいケースは多々あるものと思われる。これらの事業が、近い将来実現するだろう自動運転タクシーを含め総体としてどのようなモビリティサービスに進化し利便性を高めていくか、注目が集まるところだ。
【参考】関連記事としては「ライドシェア、政権交代でも「全面解禁」見送り濃厚 立憲民主党も反対姿勢」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)