数十万台のエアモビリティが都市上空を行き交うためには、リアルタイムで最適航路や運行ダイヤを管制するシステムの開発が不可欠だ。この管制システムを実用化するためには、膨大な計算が瞬時に可能なコンピュータが必要になってくる。
そんな中、空飛ぶクルマやドローン、エアモビリティなどが当たり前に実用化している2030年代を想定し、量子コンピューティングを活用する実証実験が行われたことが、2021年10月22日までに発表された。
■実証実験を実施した組織・企業は?
実証実験は、量子コンピューティングによる社会変革を目指す「Quantum Transformation Project」、東北大学、無人機管制システム開発を手掛ける米OneSky Systemsが共同で実施した。
このうちQuantum Transformation Projectは住友商事で発足した組織だ。「Quantum」は日本語で「量子」という意味。ちなみに住友商事は2020年4月に米OneSky Systemsに出資した経緯がある。
▼OneSky Systems
https://www.onesky.xyz/
■同時飛行数を70%向上させることに成功
刻々と変化する気象条件や電波状況、ほかのエアモビリティの状況などを加味して空飛ぶクルマの最適航路を決め、交通を制御するには膨大な計算が必要だ。
急激に増大する組み合わせの中から短時間で答えを導き出すのは従来のコンピュータでは難しい。しかし、量子コンピュータを使えば可能だという。
Quantum Transformation ProjectのYouTubeチャンネル内の動画によれば、今回の実証では「量子アニーリング技術」によって、空飛ぶクルマが同時に飛行できる数を約70%向上させたという。
将来的には同時に飛行できる台数をさらに増加させ、新たな技術として緊急飛行時に最短で最適な航路を提供できるようにすることを目指しているという。
■「量子コンピュータ」「量子アニーリング技術」とは?
量子コンピュータは情報処理の際、量子の「重ね合わせ」や「もつれ」などの量子力学の現象を利用する。こうした現象を利用することで、従来のコンピュータでは膨大な時間がかかった複雑な計算も短時間でこなすことができる。
問題を解く方式としては「量子ゲート方式」と「量子アニーリング方式」の2種類ある。このうち量子アニーリング方式は、最適な組み合わせを導き出すことを得意とする。今回の実証実験では前述の通り、量子アニーリング技術が活用されている。
■急ピッチで進める必要がある「空のインフラ」整備
空飛ぶクルマやドローンなど、世界中で実証実験が行われているエアモビリティ。すでに実現間近のフェーズに入っており、空を見上げればエアモビリティが飛び交う光景が見られるのはもはや遠い未来の話ではない。
そかしそうした未来を実現させるためには、空のインフラの整備や管制システムの構築を急ピッチで進める必要がある。こうした中、今回の量子コンピューティングの実証実験は、管制システムの構築に向けて非常に意義がある取り組みと言えそうだ。
【参考】関連記事としては「住友商事、見据えるのは「空のインフラ」!?無人機管制システム開発の米企業に出資」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)