印刷大手の凸版印刷株式会社(本社:東京都文京区/代表取締役社長:麿秀晴)は、人と協働するロボットの行動を最適化するAI(人工知能)の開発をスタートさせる。東京農工大学との共同研究になる。このほど発表した。
この共同研究を通じ、物流・小売・スマートシティなど幅広い領域において、人・ロボット・AIが協働できる社会を実現していく。
無人ではなく、人と一緒に協働する際のロボットの行動の最適化は、まだまだ倉庫や物流現場でも「半無人時代」が続く中、重要な研究であると言える。
■人と協働できるロボットのニーズ
少子高齢化などによる労働力不足という問題は深刻化しており、人の業務を代替する自律動作ロボットの活用が進んでいる。特に規模の大きな物流倉庫などでは、自律走行搬送ロボット(AMR:Autonomous Mobile Robot)の導入が進んでいる。
一方、中小規模の物流倉庫ではAMRの導入も進んでいるものの、スペースや費用の問題により、人が介在している場合が多いという。そのため、人とロボットが衝突したり、相互に作業の妨げになって作業効率が落ちたりなどといった課題があり、人と協調・協働できるロボットの開発が期待されている。
また人々の生活においては、自動走行ロボットによる配送・移動式販売や、高齢者向けパーソナルモビリティロボットの活用が検討されている。
【参考】関連記事としては「AGV・AMRとは?自動搬送ロボットとしての違いは?(2023年最新版)」も参照。
■「マルチエージェントシステム」に着目
こういった課題を解決するため、凸版印刷は「マルチエージェントシステム」(MAS:Multi-Agent System)という手法に着目し、この技術を研究する東京農工大・藤田准教授の研究室と共同で、人とロボットの協働に向けたAI技術に関する研究を開始するに至ったという。
なおマルチエージェントシステムとは、AI技術の1つで、自律動作する複数のエージェント(考える主体となるロボットや人)が相互に連携・協調し、全体最適を図りながら、高度なタスクを実行させるシステムのことを指す。
複数のロボットやエッジデバイス間でさまざまな情報を共有し、それらのシステムが自律的に環境と状況を判断し、適切な行動をリアルタイムに行うことができるという。
■人の動きを考慮して搬送経路を最適化
今回の共同研究では、物流倉庫でのピッキング作業における、人の動きを考慮したAMRの搬送経路の最適化を目的とするAI技術に関する研究開発を行う。
具体的には、まずはロボットとエッジデバイス用AIの開発を行う。これにより、複数のAMRやエッジデバイス間で共有した多様な情報を利用して、各AMRが自律的に環境と状況を判断し、最適なルートをリアルタイムに動作することが可能になるという。
次に物流倉庫におけるピッキング業務の省人化・省力化を目標に、開発したAIを活用したモデルラインを構築し、技術検証を実施する。
この共同研究において、凸版印刷は最適化アルゴリズムのAMRへの実装と、ピッキングシステムの試作を行い、実際にピッキング倉庫における評価実証を行う。東京農工大は、マルチエージェントシステムを活用し、経路最適化アルゴリズム・シミュレーターの開発を担当する。
■当分は人とロボットが協働する物流現場
凸版印刷は今後、倉庫において人と協働する複数台AMRの経路最適化システムを共同開発し、社内業務の効率化や、外販サービスとして展開していく。またマルチエージェントシステムを活用したサービスソリューションを、物流・小売り・スマートシティ向けに展開するとしている。
現在のほとんどの物流業界において、ロボットと人間が協働しており、この状況はしばらく続くと考えられる。人とロボットとAIが協働する社会を実現するための今回の研究の成果は、かなり重要なものになりそうだ。
【参考】関連記事としては「自律走行ロボットの種類は?(2023年最新版)」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)